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研究最前線(2011年4月掲載)

流域圏における気象と河川の総合的理解にむけて

フェロー 藤田裕一郎(河川工学,河川環境論,移動床の水理)
准教授 玉川一郎(気象学,水文気象学)
技術専門員 水上精榮(河川環境評価)
水系動態研究室

研究概要

 水系動態研究室では,降水・蒸発散から河川の流れまでを含んだ「水とそれに係わるものの動態」について,山岳域から河口に至る流域圏スケールを対象に,気象学と河川工学の両面から研究を進めています.すなわち,水の循環と,それに伴う土砂や炭素の循環を始めとした物質循環を研究しています.流域における水は降水によってもたらされ,途中の様々な場所で蒸発散が起こりますが,同時に,光合成や呼吸のような生物作用による現象も生じて,水だけでなく,炭素や熱も大気との間でやり取りされます.

 その過程を経た水が集まってくる河川は,我が国では歴史的に大きな改変を受けてきています.それを踏まえた上で,流域-水系-河川の望ましい機能は何か,その機能の保全あるいは増進のためにはどうすべきなのかについて,源流域から河口までの多くの場所での現地調査や,気象・水理の物理実験,数値シミュレーションなどの手段で研究を行っています.水という流体に係わる物理的現象のみならずそこに住む水生生物の応答も解明していきます.このように,総合的に流域-水系の物質動態について研究を行っています.ここでは,現在行っている研究をいくつか紹介します.

複雑地形上での森林での大気との熱・水・CO2交換量に関する研究

 2005年以来この研究室が中心となって,岐阜県高山市東部の山地のスギ林に観測タワーを建てて,森林と大気との間におけるCO2や熱・水などの交換量をモニターしています.温室効果気体であるCO2の吸収や水資源に関わる蒸発を研究するためには実際の現地での計測が重要ですが,複雑な山岳地形での観測には困難が伴います.数年間にわたる様々な検討の末,平地の森林に匹敵する精度での評価が可能になりました.この結果を用いて,流域での物質循環を明らかにしていきます.(写真左:観測タワー,右上:観測場所,右下:観測機器を収納する小屋)

河川における大小の渦形成と流速変動の精密な現地計測による実態解明とその応用

 河川の流れには,大小様々な渦があって,水流に対する河道の抵抗特性や,水中に含まれる物質の拡散・混合を支配しています.また,水難事故に対する危険箇所とも深い関係があります。洪水時の流れの解明や水難事故の防止には,流れについて水理学的な調査や測定を行って流速変動などの実態を解明し,それらに基づいて考察を加えることが不可欠です.映像記録の撮影や解析,各種の機器を用いた流れ場や水深変化の計測などによって,流れに生じる渦や流速変動の実態把握を行っています.(映像解析から示された長良川千鳥橋上流部の流れの状況(上の写真)とそのときの全体的な流れの測定図(下の左図)及び河床凹凸の拡大図(下の右図))

山間の急流小河川の安全性確保のための合理的な流水制御に関する研究

 山間部の急流小河川では,河岸や河床に河川規模に比べると非常に大きな流れの力やエネルギーが作用するため,河床が局所的に深く洗掘されたり,護岸・河岸が見る影もなく破壊されることがしばしば繰り返されています.このような被害を防止・軽減するためには,粗度とよばれる流れの抵抗要素を護岸などに配置・利用して,流れを制御することが大切です.しかしながら,急流における粗度の抵抗特性は,いまだ系統的に理解されていません.そこで実験水路を用いて詳しい解析を進めています.(実験水路の概要図(上図),流速分布の測定例(右下図),対数則から推定したその潤辺上のせん断力分布(左下図))