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研究最前線(2012年1月掲載)

新しい社会基盤施設の管理をめざして~データをして,データに語らしめる~

教授 本城勇介(地盤工学,信頼性設計,リスク評価)
特任助教 大竹雄(地盤工学,信頼性設計,リスク評価)
社会基盤施設設計学研究室

研究概要 

 本城研究室では,確率・統計の解析技術を基礎として,地盤構造物(構造物基礎,河川堤防などの土構造物)の信頼性設計や社会基盤施設の危険度,リスク評価に関する研究を進めています.

 地盤は,不均質に堆積しており,その堆積状況や強さの全貌を把握することが困難な材料です.加えて,地震が多発し,台風が来襲する我が国の自然環境条件の中,地盤に関連する構造物の設計は,まさに,これら目に見えない様々な不確実さとの戦いといえます.従来の設計は,この不確実さを先人の経験と知恵により対応してきました.この経験と知恵に加えて,徹底したデータ収集と統計解析技術を駆使して不確実さを定量化することにより,より合理的な設計方法の開発を目指しています.これらの研究成果は,最終的にはいろいろな社会基盤施設の設計基準に取り込まれ,社会生活の安全と安心を増進します.実際に現在改定中の設計基準(現在は,道路橋示方書)に,積極的に関与しています.

 また,近年,社会基盤施設(橋梁,トンネル,斜面など)の老朽化が問題となり,いかに投資額を抑えて合理的に維持管理していくかが問われています.このため,国や地方自治体は,各施設の健全性把握,対策の優先順位決定を目的として,目視による点検を一斉に行いました.これらのデータを徹底的に解析し,真に維持管理に活用できる情報をあぶり出す研究を行っています.これまで,岐阜県と連携し飛騨圏域の道路斜面,橋梁の解析に着手してきました.これらの成果は,土木計画学の研究グループと協力して,社会基盤施設のより効果的な維持管理計画の作成に用いられます.

地盤構造物の信頼性設計

 空間統計学を応用し,地盤調査を行った地点と行っていない地点の不確実性の違いを定量化して,液状化地盤上に設置された既設長大水路(12km)の信頼性を評価した事例です.予測の不確実さの程度や,それらの原因別の影響度が求められ,この種の解析の不確実さが何に起因するか(逆に,何を改善すれば予測精度が向上するか)も示されています.この結果は,この水路の耐震補強計画,さらに地盤調査を実施すべき地点の明確化など,多くの有益な情報を与えることが確認されました.(上段左写真:対象水路写真,上段右図:液状化による水路の変状解析,中段図:水路全体の変形予測図,下段図:各地点にける予測の不確実さ及び寄与度)

施設点検データベースを活用した統計的手法に基づく社会基盤施設の危険度評価

  既往の施設点検データベース(安定度調査表)と実際の落石履歴データに基づいて斜面の危険度を解析した事例です.斜面の点検は,地形・地質,形状,過去の変状履歴などの多数のチェックリストと点検者の定性的な総合評価(3段階)で構成されています.多数の点検項目から真に必要な項目を統計的に抽出し,相対的な危険度を解析した上で,実際の落石実績数でキャリブレーションして絶対危険度に変換しました.安定度調査表だけでは明確にできなかった,対策優先度を定量的に算定することができるようになりました.(左写真:斜面写真,中央図:安定度調査表(チェックシート),右図:斜面の絶対危険度(解析結果))