トップページ > 社会基盤工学科 > 研究最前線(2014年7月掲載)

研究最前線(2014年7月掲載)

安全・快適な水質とより良い水環境を求めて

教授 李富生(衛生工学・水質工学)
准教授 山田俊郎(衛生工学・水環境保全工学)
准教授 廣岡佳弥子(水処理工学)

水質安全研究室

研究概要

 私たちは毎日大量の水を使っています。それらの水はどのようにして使えるようになっているのでしょうか、より安全で美味しい水を求めるにはどのような処理方法が必要になるのでしょうか。飲み水を含め、私たちが使っている水の元になるのは河川、湖沼、地下の水です。これらの水に濁り・悪臭などの物質、有害有毒な物質、病原微生物・ウイルスはどのぐらい存在し、またどこから排出されているのでしょうか。そして、私たちが使った後の水は汚水になります。工業活動に由来する大量の廃水と同様に、河川や湖沼の生態、人々の健康に悪影響を与える物質が多く存在しています。このような汚水はどのような処理工程を経て自然水域に戻されるのでしょうか。その処理工程で発生する汚泥や家庭から出る大量の生ごみはどのように処理し、資源化・エネルギー化にしていけるのでしょうか。私たちの水質安全研究室は、これらに応えるための教育と研究を行っています。

 研究室所有の全国有数の実験設備を駆使して、安全で美味しい水の供給、衛生的で快適な生活環境の創出、循環型社会の形成に貢献する様々な研究を行っています。最近では、特に浄水処理における発がん性物質や病原微生物の挙動評価とプロセスの最適化、自然水域での病原微生物や粒状態有機物の実態評価と起源解明、生物を利用した廃水や生ごみの資源化・エネルギー化の技術開発に重点を置いた研究を展開しています。

放射性物質の環境中での挙動評価と浄水処理による除去

 福島第一原子力発電所の事故によって環境中に放出された放射性セシウムが、降雨や融雪により河川や湖沼に流入することに起因する水質の安全が、懸念されています。私たちは、セシウムの底泥粒子への付着特性、微生物による蓄積特性などの研究を通して、セシウムの水環境中での挙動と運命を評価しています。一方、より安全で美味しい水道水を供給するため、高度な処理方法である活性炭吸着の施設を導入する浄水処理場が増えています。セシウムが活性炭吸着施設に流入した場合、どこまで除去できるか、活性炭の種類によって除去率は変わるか、水中に普遍的に存在するフミン質とどのように絡み合って除去されるかについての研究も行っています。

(写真:様々な種類の活性炭を用いたセシウム吸着実験)

自然水域における粒状態有機物の存在実態の把握と起源の解明

 自然水域における有機物は、河川や湖沼の生物にとって重要な餌であり、水域の生態系を支える重要なエネルギー源ともいえます。我々は、特に直径1マイクロメートル以上大きさの、水中に浮遊している"粒状態"有機物に注目し、水源域から下流に対し、どのような時期に、どれくらいの量で、どのような形態で、有機物が供給されているか、さらにその有機物の供給源はどこか、詳細な現地調査から明らかにする研究を行い、水質面から河川や湖沼の保全のありかたを考えています。

(写真:水源森林河川における調査風景:夏期(左)冬期(右))

微生物燃料電池を用いた廃水からのリン回収

 微生物燃料電池とは、電気を生産する微生物を利用して有機物から直接発電することのできる技術です。廃水処理に適用すると廃水の浄化と同時にエネルギーを電気の形で回収することができるため、次世代の廃水処理技術として世界的に注目されています。我々は、微生物燃料電池において、廃水から発電と同時にリンの除去・回収をおこなう研究をしています。リンの排出は水環境に悪影響を与え、さらにリンは肥料の成分として代替品の存在しない貴重な資源であるにもかかわらず、世界のリン鉱石は数十年以内の枯渇が予想されており、その除去・回収は重要です。

(写真:微生物燃料電池リアクターでプロペラを回しているところ)