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研究最前線(2014年9月掲載)

私たちをとりまく自然環境を評価し、予測し、活用する。

教授・小林智尚(海岸工学・気象工学)

准教授・吉野純(気象工学・気象学)

自然エネルギー研究室

研究概要

 私たちは土木工学の分野でも急速に広まっている環境問題を、再生可能エネルギー開発と合わせて考えています。そのキーワードは「気象・波浪・海洋から森林・都市・流域までの把握~私たちをとりまく自然環境を評価し、予測し、活用する~」。私たちの研究室では、観測測器による現地観測やコンピュータによる数値計算を通して、気象や海象の現象を調査・解析し、さらにはそれらの予測にもチャレンジしています。これらは、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの利用や森林・海洋生態系サービスの活用など、持続可能な自然共生社会の実現に向けて今求められている技術です。

また、研究の一環として、私たちの研究室では、現在、より高精度な気象モデルの開発を目標として、「岐阜大学局地気象予報」という天気予報サイトを運営しています(http://net.cive.gifu-u.ac.jp/)。大学初となる気象予報業務許可(許可第87号)を取得して、高分解能な気象モデルや波浪モデルにより、毎日36時間先までの1時間毎の天気・風向・風速・気温・湿度・日射量・波浪などの予測情報を提供しています。

(図:岐阜大学局地気象予報のウェブサイト)

太陽光発電の発電量マップの構築と発電量予測

 太陽光発電は、天候のほか山陰などの地形によっても日射が変化するので発電量も変化してしまいます。私たちの研究では、天候や地形を考慮して、様々な地点に太陽光発電を設置した場合に期待できる発電量をマップ化することを目標としています。愛知県・岐阜県の評価のみならず、海外の評価も行います。

また、太陽光発電は晴れの日は発電しますが、曇りの日や雨の日は発電しません。太陽光発電が発電しないときには火力発電などで代わりに発電しなくてはなりません。私たちは、気象モデルを用いて太陽光発電の発電量を1日前に高精度に予測することで、エネルギーの安定化に資する技術開発を進めています。

これらの研究成果をもとに、太陽光発電が見積れるようにホームページ(http://energy-met.cive.gifu-u.ac.jp/pv-map/gifu-aichi.html)に公開しています。

(図:気象モデルにより評価されたこの地域の太陽光発電の発電量分布)

宇宙太陽光発電の電力地球伝送効率の推定

 一年中昼夜問わず太陽が当たる場所で効率的に太陽光発電を行うプロジェクトとして2020年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が宇宙に太陽光発電システムを打ち上げる計画を進めています。宇宙で発電した電力はレーザ光線として地球に送ります。レーザ光線で地球に送る際に邪魔となるのが大気中の雲の存在です。 

私たちの気象モデルを用いた研究では、雲の存在により年平均で4~7割程度のエネルギーが失われると見積もられています。さらに、雲の発生・移動・消滅を評価・予測し、宇宙から地球への電力伝送の効率を上げるための基礎研究も行っています。

(図:気象モデルにより推定された日本列島周辺のLSSPSレーザの年平均透過率分布

高解像度台風モデルの開発と可能最大高潮の推定

 近年、地球温暖化の進行に伴って海水面の温度が上昇することで、台風の勢力も強まるものと懸念されています。そのような強大化した台風が私たちの住む街に直撃した場合、一体どのような被害となるのでしょうか?私たちの研究室では、台風強大化の仕組みを解明すると共に、台風の強さを精度良く評価できる台風モデルを開発しています。

さらに、台風モデルを海洋モデルや波浪モデルと組み合わせることで、沿岸域における可能最大級台風による台風災害外力(高潮・高波・強風・強雨)を評価しています。進行しつつある地球温暖化が台風に伴う強風や強雨に与える影響は無視できないものになると、私たちの計算によって理解されつつあります

(図:台風モデルにより推定された2004年の全台風の強さ

西表島網取湾のサンゴ生息分布と物理環境の関係性

 沖縄件西表島の北西部に位置する網取湾は、幅約2.5km、奥行約3.5kmの北向きに開いた小さな湾です。最大水深は70mに達し、両側にはサンゴ礁が発達し、湾奥には2つの河川とマングローブ干潟を有し、比較的小さな湾にも関わらず環境変化が極めて大きな湾となっています。

私たちの研究では、五洋建設株式会社・防災科学技術研究所・東海大学沖縄地域研究センターと共同で、この西表島網取湾を対象として、現地観測や数値解析による物理環境の評価を行い、サンゴ礁など海洋生態系との関係性について解明し、より効果的な生態系保全技術の発展を目指しています。

図:西表島網取湾の地理と自然環境