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研究最前線(2011年8月掲載)

コンクリートの一生をプロデュースします

教授 六郷恵哲
准教授 小林孝一
破壊診断工学研究室

研究概要

 近年,コンクリート構造物をいかに維持管理していくかが問われています.今あるコンクリート構造物に的確な調査・診断を行い,的確な対処を行うための技術が必要とされています.また,新設されるコンクリート構造物には更なる高性能化,長寿命化,省力・省資源化が望まれています.こういった背景の中で21世紀を担うコンクリート技術の発展のために必要な学問の総称として破壊診断工学と名付けました.破壊診断工学とは,コンクリート部材の破壊や劣化のメカニズムを理解し,既設コンクリートの長寿命化および新設コンクリートの高性能化・高機能化を図るための手段を確立するための学問です.

コンクリートの耐久性に関する研究

 コンクリート構造物は極めて耐久的ですが,様々な原因で劣化が生じることもあります.そのうち代表的な劣化過程である塩害,アルカリシリカ反応,凍害などについて,そういった劣化がどのようなメカニズムで起こっているのか,どのようなコンクリートをつくれば劣化を低減できるのか,劣化が起こってしまったときにどうすれば効率よく,かつ,信頼性高く補修できるのか,についての研究を行なっています.

【写真】コンクリート内部で腐食した鉄筋(左)、海岸構造物の劣化(中)、水利施設でのアルカリシリカ反応(右)

コンクリート構造物の診断に関する研究

 私たちの安全な生活を支える社会基盤施設について,何年も供用した後の現時点での性能がどのようであるかを定量的に診断することは, 大変重要です.そのためには信頼性の高い検査技術の開発を欠かすことができません.電気の流れを利用した従来型の検査手法に加え,蛍光X線を用いたコンクリート中の微量物質量の分析,電磁誘導加熱(IH)と赤外線サーモグラフィー法を併用した鉄筋腐食量の検出など,常に新しい課題に取り組んでいます.

【写真】腐食のない鉄筋の赤外線画像(左)と腐食した鉄筋の赤外線画像(右)

コンクリートの高性能化に関する研究

 コンクリートは,圧縮力には強いけれども,引張力を受けると容易にひび割れてしまいます.コンクリートに綿状で高強度のポリエチレン短繊維やビニロン短繊維を混入すると,この弱点は大幅に改善されます.この高性能な高靱性繊維補強コンクリートを対象として,引張性能の評価や構造利用に関する研究を行っています.例えば,ダンベル状の供試体を用いた引張試験方法を開発したり,薄くて軽く,細かいひび割れしか生じない部材を開発しています.

【写真】綿状の短繊維を混入した高靱性繊維補強コンクリート(左)と引張試験装置(右)

コンクリート構造物の破壊や補強に関する研究

 構造物は破壊しないように設計施工され維持管理されていますが,稀に破壊事故が起こります.コンクリート構造物の破壊事故の原因や防止対策に関する研究を行っています.材料の劣化や使用条件の変化に伴って,構造物の補修・補強が必要となることがあります.後施工型の鉄筋や繊維ネットなどを用いて,コンクリート構造物の補強に関する研究を行っています.大きな力を受けると,所定の部位が破壊して大きな変形を吸収できるコンクリート部材を開発しています.

【写真】破壊事故の例(左)と局所的な破壊を生じて変形を吸収する部材(右)