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研究最前線(2012年3月掲載)

橋の劇的な軽量化を目指して

助教 木下幸治(鋼構造学,耐震工学など)

複合構造研究室

研究概要

 車や飛行機などが軽くなり燃費が向上したといったことをよく耳にすると思いますが,最近,橋も軽くなってきていることをご存じでしょうか.2012年2月に開通した東京ゲートブリッジでは,近年新しく開発された橋に特化した橋梁用高性能鋼材SBHSを用いて橋の軽量化を実現してきています.陰ながら橋の技術も新たな一歩を踏み出しており,今後ますます「橋の軽量化」が進められると考えています.地震国である我が国では,橋の軽量化は地震に対して有利になるなど,多くの利点が期待できます.

 本研究室では,橋の軽量化を目指す上での設計上,構造上,維持管理上の多種多様な問題に対し,構造力学,鋼構造学,耐震工学,破壊力学,溶接工学などの幅広い知見を駆使し,解決策を見出すための研究を進めています.

橋の疲労強度向上に関する研究

 橋では維持管理上,疲労がネックとなります.疲労は構造物などの疲れであり,疲れの蓄積によりひび割れ(き裂)が生じ,そのき裂が大きくなり破壊に至る現象です.鉄(鋼材)を用いた橋,鋼橋では溶接が多用されており,疲労破壊の多くは,応力が集中する溶接箇所で生じます.この疲労に対する安全性を確保すると橋の重量が増加するため,橋の劇的な軽量化を実現するためには疲労に対する安全性を向上させることが必要です.この課題に対し,最近は溶接箇所への超音波ピーニング処理による疲労に対する安全性の向上を試みています.超音波ピーニングとは,超音波の高速振動を利用し,その振動を装置に取り付けたピンの往復運動に変えてピン先端で溶接個所を高速で繰返し叩き押し固める(圧縮)ことです.疲労破壊は主に何度も引っ張られて生じる現象であることから,超音波ピーニングにより溶接箇所を予め圧縮することで引っ張られにくくし,疲労破壊を生じにくくしようという試みです.これまでの研究により,溶接個所の疲労に対する強度を格段に向上できることを明らかにし,本成果を基に実際の鋼橋への適用が進められています.(写真:実際の鋼橋への超音波ピーニング処理実施状況)

橋脚の新しい構造形式に関する研究

 高架橋梁の構造物の設計には,いまだに数十年前に構築された設計や構造形式が用いられ,過度に安全となっているケースが多々見受けられます.橋の軽量化を目指す上で,適切な設計,並びに構造形式とすることが必要です.この課題に対し,最近は過度に安全になっている鋼製橋脚の柱とはりの接合部である隅角部を対象に新しい構造形式を提案してきております.これまでの研究により,従来構造形式から提案構造形式のように構造を変更(鋼板を隅角部に向かって羽を広げるように広くした構造)することで,隅角部の強度を従来構造と同程度以上に向上できること,並びに,破壊力学的に耐震性能上有利となることを明らかにしています.(写真:従来隅角部構造[左]と提案隅角部構造[右])