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研究最前線(2020年11月掲載)

地質の理解による大規模地質災害の低減と地中熱資源評価を目指して

教授・小嶋 智(地質学・応用地質学)

教授・大谷具幸(地質学・地熱資源工学)

地球科学研究室

研究概要

 地球科学研究室では,基礎科学である地質学を活用して大規模地質災害の減災と地熱資源評価を進めています。過去に地すべりや地震が発生した記録がない地域であっても、遠い過去には大規模地質災害が起きていたかもしれません。そのような記録は地層や岩石に残されていることがあります。その記録を読み解くことによって、地震を引き起こした活断層の動きや大規模地すべりの特徴を見いだすことができます。このように人間の一生をはるかに超える長大なタイムスケールで過去に起こったできごとを理解することにより、今後予想される大規模地質災害の予測につなげ、その被害を低減させることを目指しています。また、地下には地質災害の記録のほかに、資源が隠れていることがあります。地下浅層の熱を利用する地中熱利用は今後の発展が見込まれる自然エネルギーであり、地下の状況の理解を進めることによって利用可能な資源量の評価手法の開発を進めています。このような観点から進めている最近の研究を以下に紹介します。

活断層の活動履歴を評価する新しい手法の開発

 岐阜県には日本有数の規模の活断層がいくつも分布しており、1891年には根尾谷断層が活動して濃尾地震が発生しました。その痕跡は岩石の中に断層破砕帯として記録されており、その痕跡を読み解くことにより地下の断層で生じた現象を明らかにしようとしています。

研究最前線202011‗1.jpg写真: 根尾谷断層破砕帯の活動の痕跡。指先の茶色の部分が濃尾地震の際にすべりを生じており、この岩石に記録された断層活動の痕跡を調べています。

 

斜面災害の軽減に関する地質学的・地形学的研究

 急峻な地形からなる造山帯では、斜面災害が頻発し、その減災が重要な課題です。岐阜県は、県土の大部分が山地からなるため、斜面防災・減災が重要な課題であり、またその好フィールドでもあります。どのような地質学的・地形学的特徴の場で斜面災害は発生するのか、その前兆現象にはどのようなものがあるのかを、日本各地の山地およびスイスアルプスで研究しています。研究には火山灰や放射性炭素を使った年代測定も行います。

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写真: 北アルプス蝶ヶ岳にみられる二重山稜地形(左上),焼岳の2300年前の噴火によって形成された火砕流堆積物(右上),火山灰中に含まれる火山ガラス(左下),火山ガラスの年代決定のために行われる化学分析(右下)

オープンループ方式地中熱利用システムの適地選定手法の開発

 再生可能エネルギーを利用することは、地球温暖化抑制のために現代を生きる私たちに求められている大きな課題です。再生可能エネルギーである地中熱利用のうち、地下水の熱を熱源とするオープンループ方式に関して、地質・地下水情報と空調実証実験の成果に基づいて適地を評価する手法を開発しています。これにより、今後の本格的な普及を前にして、地下情報の整備を行い、円滑に普及が進んでいくことを目指しています。

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図: 地下情報に基づく地中熱利用システムの年間消費電力量比の評価例