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研究最前線(2021年2月掲載・地域マネジメント研究室)

災害リスク・環境・仕組みの価値を見える化し、社会の改革を!

教授・髙木朗義(政策評価・地域計画・総合防災)

地域マネジメント研究室

「価値の見える化で社会システムを考える」

 災害に強い地域,環境に優しい社会,地域活性化を中心に,地域社会を支えるハードからソフト,つまり社会基盤施設から社会システム,さらには人的ネットワークに至る幅広い社会基盤の仕組みについて研究しています.特に,安全性・快適性・利便性などの市場で取り引きされない外部性の価値を定量的に評価し,それに基づいた,公共政策デザイン,スモールビジネス,地域協働の仕組みを探究しています.

「将来の都市構造とインフラを考える」

 コンパクト+ネットワークを目指すのか?分散型インフラへの転換を目指すのか?政府が提唱するSociety 5.0という未来社会に合った都市構造とはどんな姿か?自動運転,ICT・IoT・AI,燃料電池・蓄電池など様々な技術革新が進展することを見据えた場合,将来どのような都市構造やインフラ整備を目指せばいいのか,それをどう実現するのかについて研究しています.

テレワークの普及が都市構造に及ぼす影響分析

 近年,少子・高齢化や人口減少に対して,医療・福祉,住宅を集約し,都心部と周辺部を公共交通でつなぐコンパクト・プラス・ネットワークのまちづくりが進められている.一方,東京オリンピック開催に伴う交通混雑の緩和や働き方改革,新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークが急速に普及しつつある.テレワークにより人々は勤務地以外で就業できるため,職住接近の必要性が小さくなるなど,通勤時間を気にせずに居住地を選べるようになる.本研究では,テレワークの普及が人々の居住地選択に影響を与え,都市構造が変化する可能性があるという仮説を立て,テレワークの普及による通期時間の減少とそれに伴う余暇時間の増加に着目し,それらが都市構造(世帯数分布)に及ぼす影響を分析した.

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図: テレワーク普及の有無による世帯数分布の差(2050年)

 

説明可能なAI(XAI)を用いた豪雨災害時の住民避難行動分析

 近年の豪雨災害における人的被害の状況から依然として適切な住民避難行動が課題となっている.一方,これまで多数の統計手法により住民避難行動が分析されてきたが,適切な住民避難行動促進には至っていない.本研究では,AIを用いて住民避難行動を分析し,住民避難行動の行動変容に寄与する要因を抽出した.具体的には,機械学習モデルの一つであるニューラルネットワーク(NN)モデルを用いて,豪雨災害時の住民避難行動モデルを構築し,説明可能なAI(Explainable AI;略してXAIと呼ばれている)を用いて,従来はブラックボックスと言われ,可読性の低かったNNモデルの予測に係る根拠を示し,住民避難行動に影響を及ぼす要因を分析した.

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図: 住民避難行動NNモデルの概念

アプリ減災教室を用いた企業・団体による職員の災害への備え促進の効果分析

 近年,災害対策の方法は災害の発生を前提とし,その被害を最小限に抑える「減災」の考え方に変わりつつある.減災で重要なことは事前に災害に備えることである.しかし,内閣府の調査によると,年齢が若いほど災害に備えていない割合が高く,特に15〜44歳は約7割が災害に備えておらず,やろうとは思っているが時間がない,コストがかかる,機会がない,情報がない等が理由に挙がっている.一方,同調査では,日常的に意思疎通を行う人として15~54歳は学校・職場等の人とする割合が39~49%であることも示されている.そこで,日頃から交流している職場等で一緒に災害に備える,あるいは促し合うことができれば,事前に災害に備える割合が高くなるのではないかと考えた.また,職場等で行えば,時間がない,機会がない,情報がない等の問題点も解決されるのではないかと考えられる.本研究では,企業や団体の職場を通じた職員の災害への備えを取り上げ,実際にアプリ減災教室を用いた促進を実施し,効果分析を行った.

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図: 個別促進の対象者と非対象者の災害への備えの違い